15.5月の終わりくらい 送迎会の日

1.

「まさか出てくるとは思わなかった」

そうだよなあって、自分でも思うけれども上司がそれを言うのはどうなのさ。おれにだって人並みの気持ちを胸のうちに持っていて、自分以外にも移動になった人の送別会を兼ねているなら多少苦しくても挨拶のために出席するか、してやろうと思うくらいの心はあるのです。送られる側でそんなにお金取られなかったしね。

でもまあそんなことで不満を顔に出すのはいけない。なんたって送迎会だからね。ぶすっとした顔をしていたら自分だって、相手だって気持ち悪いでしょう。

だからニコニコ笑いました。ニコニコ。ヘラヘラしているとそんなに怒りもわいてはこないし、周りもニコニコするしみんな幸せ。うん、いいね。おれはみんなに幸せになってほしいんだ。本当だよ。

それにこの場に悪い人なんて、たぶんいないんです。立場上厳しいことを言わざるを得なかったり見えているものが違ったり、そんな悲しいすれ違いはよくない。罪を憎んで人を憎まずとはよく言ったものだよね、こういう言葉があるおかげで人間は人間であれるんじゃないかな。

会社を憎んで人を憎まず。会社なんて潰れちまえ。

 

2.

ヘラヘラしつつも周りの人なんかと話してみると、やっぱりみんないい人なんですよね。おれのことを気遣ってくれるし、当たり障りのない話をしてくれるし、応援だってしてくれる。

だからこそ、今更になっておれの思考はぐるぐるしてしまって、いいの? 本当にこうして辞めて、いいの?

もう時間なんてないし撤回もできない以上どうにもならない出来事だというのに考え込んでしまい、あぁこれは良くない。溝にはまる。抜け出せなくなる。自分が情けなくて逃げ出して恥も外聞も捨てて謝りたくなる。つらいと思っていた、おれの気持ちはどこへ行ってしまったのだろうね?

確かにどこかにいたはずなんです。嘘じゃないんです。嘘なんてついても、人間幸せにはなれないよ。

あぁもう、だからきっと送別会なんて出たくはなかったんだ。人の気持ちに触れるとせっかく固めた決心も、憎いと思ったあの気持ちもどこかへ霧散してしまう。おれの前で笑わないでくれ。笑うな。やめろ、応援しないでくれ。

そんな気持ちにはニコニコと蓋をして、そう、蓋をしないといけない。ヘラヘラすることで受け流してしまえ。くそう。

 

3.

「ヘラヘラしてるけどさ、○○(名前)の性格知ってるとそれだけじゃないんだろうね。めちゃくちゃパンクで面白い」

帰り道で同期に言われた言葉。

そんなに君と話した記憶もないのだけど、1年と少しも一緒にいれば滲み出るものから感じ取るものもあるのかもね。いぇーいって、二人で写真を撮りました。彼女のLINEは知らないからこの先その写真がおれに届くことはないでしょう。お前身長小さいなあってケラケラ笑って、相手も笑う。他の同期にもおれが辞めることはもう話したんだろうな。なにを思って笑ってるのかわからないけれど、笑うのは楽しいからそれだけでいいよ。ケラケラ。

いやはや、なにが正解だったんだろうね。