38.12月のはじめくらい 鼻水がのどに詰まる日
1.
風邪を引きたいなあと思っていたら見事に引きました。風邪を引きたかったのはとある事情からだったのですが、というか会社のことなのですが、これは全く健全ではないですね。僕たちは人間である前に動物、生命なわけで、その生命の本能たる生存を脅かすものは間違いなく風邪などであり、現代でこそ薬なんかがありますが昔はそうもいかないわけです。
たぶん生きてるってことが希薄化してるんですよね。それか過度のストレスに晒され続けておかしくなっている。だって、会社を休むために風邪を引きたいなんて尋常ではないですよ。生きるために死にたいって言ってるのと同じことです。それもこれも現実が悪い。バーチャルに生きたい。みんなそう思うから、スマホ画面を見ながら歩いてるんですよね? 会社でブルースクリーンを眺めているんですよね?
わかりますよ。もう1日の中で画面を見ていないのなんて、食事のときくらいじゃないかなあ。あ、いや食べながらもスマホを見てるかな。人とご飯を食べることのできる人たちは違いそうだけれど。
そんなわけで、つまり僕たちは1日の大半を現実という窓からワールドワイドウェブの中を漂っているわけで、これを読んでいる(もしくは書いている僕も)現在進行形で漂っているんですよね。
そう考えるとなんだか楽しくなってくる。すごいぞ、現実に出向かなくても僕はワールドワイドウェブ上に偏在している。ここにはたくさんの僕の痕跡が残っているし、これからも残り続ける。風邪を引くこともない。休む必要もない。意識がない間は休んでいることと同義だからね。やあ、すごいなあ。
2.
まあそんなところに偏在していたって、現実の体は1つしかないのでこれをどうにかしないといけない。起きている間の苦しみは僕が全部背負っているんです。毎朝毎晩毎時毎秒嫌になるほど苦しんで苦しんで悩み、もがいては落ち、いまはもう諦めて落ちながら空を眺めている。
人間、遠くを眺めているのが一番楽なんだよね。手の届かないもの。届いちゃうとだめなんです。自分なんかでも届くものなんだって、途端に陳腐でしょうもないものに思えてしまう。ライターだってそうですよ。蓋を開いてみたら、髪の毛がピンクに染まった人とか、井戸端会議が好きそうなおばさん、広島の菊池みたいな顔をしたヒッピーがごちゃごちゃ言いながら書いている。僕はそれを見ながら僕が目指したものはこんなものだったのかと絶望している。あとシフトにも。
目下のところ、問題というのは問題を解決しないとなくならないんです。何を当たり前なことを。まあそう思いますよね。
でもその問題が解決できないから、みんな別のことをするんじゃないですか。美味しいものを食べたり、人とボードゲームをしたり、ぼんやりとしながら散歩をしてみたり。大抵の場合、むやみやたらに別のことをしたってたいした効果はないんだ。
散歩をしたところで僕たちは明日も働かないといけない。ゲームをして勝ったところでお金が増えはしない。食事をして満たされてもそれは数時間の間だけ。
どうしようもない問題を、別のことに目をそらして見えないようにしているだけだよ。
だから通勤中は現実を見ないようにスマホを眺めて過ごし、家に帰り着けば虚しさをごまかすためにブログを書く。
帰り道、ポケモンGOをしていたらおじいさんとおばあさんがジムでバトルをしていた。もう定年は過ぎているだろうし、趣味としてやっているのだろうけれど、彼らの趣味と僕の趣味では重さが違う。その重みに追いつけるまで、僕はあとどれだけ苦しめばいいのだろうね。